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奈良のシカ「特別柵」めぐる問題 専門家「特別柵だけでなく 公園全体の環境づくりを」
2023.11.22 18:59
県が設置し、奈良の鹿愛護会が管理するシカの保護施設「鹿苑」のなかにある「特別柵」をめぐる問題で、専門家にポイントを聞きました。奈良テレビの取材に対し、専門家は、「シカを守るには特別柵の問題だけを論じるのは不十分で、奈良公園全体の環境づくりを考えていく必要がある」と指摘しました。
「鹿苑」では、けがをしたシカの手当てや、出産期の雌ジカの保護などが行われていますが、問題となっている「特別柵」には、農作物や人に危害を与えたシカ、約240頭が死ぬまで収容されています。この特別柵をめぐり、奈良の鹿愛護会に所属する獣医師が、「えさの量や質が不十分で虐待にあたる」と主張したのに対し、愛護会は「えさは十分に与えているが、柵内の環境に馴染めず死亡するケースがある」として虐待ではないと反論していました。
これを受け、県は特別柵の管理状況について調査を行いました。そして11月6日、国際獣疫事務局が提唱する動物福祉の理念、「動物の5つの自由」のすべての指標に抵触しているとして、シカの収容環境は不適切と結論づけました。この調査結果について、ニホンジカの生態や「奈良のシカ」に詳しい北海道大学大学院・特任助教 立澤史郎さんは、「特別柵に改善すべき点があるということについてはおおむね妥当な判断」と話しました。一方で、動物福祉の理念を野生動物の飼育にも適用したことには疑問を呈しました。
北海道大学大学院・特任助教 立澤史郎さん
「『動物の5つの自由』というのはかなり昔から言われていることで、非常に重要な基準だと思うんですが、実は、日本では今年に入ってからしっかり制度化していこうと議論されるようになって、野生の動物を飼育した状態のときに、どういう基準を具体的に満たさなくてはいけないかというのは全くまだ、特にシカに関しては真っ白な状態。シカに関してそういう基準がない段階で(山下知事は)「指標に抵触している」という言い方をされましたが、はたしてそれが妥当かどうかというところは私は疑問が残ると思っています。」
特別柵が生まれた背景にあるのは、深刻なシカの農作物への食害被害です。国や県ではこれを解決するため、シカの生息区域を奈良公園を中心に、4つの地区に分けました。奈良公園と春日山原始林などでは捕獲を禁止する一方、山間部などでは殺処分を含めた捕獲を許可。特別柵に収容されているのは、捕獲が禁止されている地区と山間部との「緩衝地区」で捕獲されたシカです。
立澤さんは、シカが公園の外に出て農作物を荒らす背景には奈良公園の自然環境の悪化が関係していて、それはシカの健康状態の悪化にも繋がっていると指摘します。そして、シカの問題を根本的に解決するには、特別柵だけでなく公園全体の自然環境に目を向けて議論していくべきだと話します。
北海道大学大学院・特任助教 立澤史郎さん
「昔、芝地だったところが駐車場になったり、建物が建ったりということで、そもそも植物が生えている場所がずいぶん減っている。私が危惧しているのは、A・B地区にシカの自然の食べ物、芝やドングリなどの木の実であるとか、非常に少なくなっているという問題があります。今回の特別柵の問題だけで終わるわけにはいかないと思っています。食べ物であるとか、子鹿の隠れ場とか、出産場所っていうものをまず実態調査をして、我々が知っている30~40年前というのは、もっと奈良公園というのは緑豊かだったわけですから、そういう環境を復元していってやるっていうことが大切になると思っています。」
そして、今後どのような議論を進めるべきかについては…。
北海道大学大学院・特任助教 立澤史郎さん
「県や市・春日大社に加えて、農業被害を受けている方々、それから普段シカにいろんなかたちで関わっている市民の方々が一緒になって、シカとどういうふうにこれから付き合っていったらいいか、そのために何を実現しなくちゃいけないかということを洗い出す必要があると思います。」
また県は、報告のなかでシカの管理を愛護会にまかせっきりにしていたこと、補助金が十分でなかったとして「共同責任」であるとする一方、「愛護会には野生のシカに対する知識が不足していた」としています。しかし立澤さんは…。
北海道大学大学院・特任助教 立澤史郎さん
「(愛護会は)世界的に見て、野生のシカの保護管理の技術をこれだけ蓄積している組織というのはなかなかないですので、もっとその経験をいかしていただきたいと思います。」
世界でも例のない奈良という都市におけるシカと人との共存、そして奈良公園全体のあり方について様々な立場からの意見を取り入れ、十分に議論することが求められています。なお、奈良市は「鹿苑」の特別柵で虐待が行われていたかの調査結果について、11月24日に報告するとしています。
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